
ご挨拶
第55回日本神経放射線学会の開催にあたりまして
第55回日本神経放射線学会
会長 長縄 慎二
(名古屋大学大学院医学系研究科 高次医用科学講座量子医学分野)
会長 長縄 慎二
(名古屋大学大学院医学系研究科 高次医用科学講座量子医学分野)

この度は、歴史ある本学会の開催をさせていただくこととなりました。副会長の田岡俊昭とともにご参加の皆様にとって有意義で楽しい学会となるように鋭意準備をしてきました。
今回のテーマは以下のようなことを考えて、田岡副会長と随分と議論して、 ”Beyond the Mystical Barrier ~結界を超える~” としました。
自分で作った結界を超える
神経放射線に限らず医学、科学の革新的な進歩には、従来とは違うアプローチによって様々なバリアを超えて研究を進めることが肝要です。バリアの中には、技術的なもの、科学的なもの、倫理的なものなど種々ありますが、まずは我々の心のなかにある既成概念や習慣といった自分たちが自分たちを縛り付けている結界のようなものを破ってみることから見えてくるものがあるように思っています。たとえば、脳のMRIではT1強調画像、T2強調画像、FLAIR像などあります。大体、決められた範囲の条件で撮像することで、施設が違っても、機種が違っても、疾患が違っても、比較検討することが出来ます。多数の症例を経験することで、診断学が確立され、教育が行われています。しかし、その中だけにとどまっていれば、MRIの無限の宇宙空間のごく少数の点を使っているに過ぎません。空間を広く使えば見えてくる世界が変わってくるはずです。最新の知見から従来の結界を超える
またMystical Barrierのもう一つの意味は、神経放射線医学の世界でも、血液脳関門(BBB)やB-CSF-B、血液迷路関門など様々なものがあります。例えば、最近SLYMという第4の髄膜が報告されました。髄膜の数といった極めて基本的な事すら、新たな知見が出てくる状態です。改めて、医学の未完成さを再認識するとともに、神経放射線医学もまだまだ無限の可能性があるという希望を込めました。人と人との間の結界を超える
コロナ禍の間に、学会のリモート化や懇親会などのリアルイベント開催制限があったこともあって、会員同士のつながりも希薄になりがちです。学会の醍醐味はやはり人とのコミュニケーションです。ちょっとした立ち話や宴会での冗談から新たなアイデアが生まれたりします。こうした貴重なつながりを大切にする学会にしたいと思って準備をしてきました。
交通の便の良い名古屋の地で、ぜひ心ゆくまで神経放射線医学をたっぷりと堪能していただければと思います。
第55回日本神経放射線学会
副会長・事務局長 田岡 俊昭
(名古屋大学大学院医学系研究科 革新的生体可視化技術開発産学協同研究講座)
副会長・事務局長 田岡 俊昭
(名古屋大学大学院医学系研究科 革新的生体可視化技術開発産学協同研究講座)

第55回日本神経放射線学会を名古屋大学で担当させていただくことになり、長縄慎二会長のもと、副会長をおおせつかりました。私にとって日本神経放射線学会は母学会であり、会の運営を担当させていただくことに感慨深いものがあります。
今年のテーマは「結界を超える」です。長縄会長も述べているように、この言葉には様々な意味が込められています。そのうちの一つが、従来の概念を覆すようなイノベーションの創出です。改善や改良といった持続的なイノベーションも大切ですが、既存の枠組みにとらわれず、新たな発想や概念を生み出すディスラプティブ・イノベーションに期待が持たれます。海外からの知見や方法を国内に持ち込んで応用を加えるという古くからの戦略は、研究の重要なステップであることに変わりはありません。しかし、単なる改良や知見の追加にとどまらず、基礎的な積み重ねの上に立ちつつ、「エイやっ」と結界を超えるような研究こそが、これまで本学会の先輩方が数々の日本発の手法や知見として発信してきたものです。この様なイノベーションの伝統を、私たちも引き継いでいきたいと考えています。
一方で、「結界を超える」ということは、結界が存在することが前提ともいえます。生物の定義の一つは、外界と膜という結界によって仕切られていることです。結界は、ある意味インキュベーターの役割を果たし、内部の環境を保護しながら成長を促します。本学会もまた、若い才能を優しく包み、守り育てる結界の一つであってほしいと願っています。そして、そうして育った若い才能が、やがて結界を超えて羽ばたくことこそが、学会の本質的な役割の一つであると考えます。私自身、若い頃に「去年の学会でこんな発表をしていたね」と声をかけてもらえたことは大変励みになったものです。ベテランの会員の皆様には、ぜひ他施設の若い先生方の発表も気にかけていただきたいと思います。名前を覚える、研究内容を評価する、それだけで大変な励みになるものです。若い先生方が一日も早く結界を超えて飛躍できるように見守り育てることのできる学会でありたいと考えています。
今回の日本神経放射線学会がこれまで築いてきた伝統を大切にしつつ、新たな挑戦を続ける場であり続けることができますよう、皆様のご協力をなにとぞよろしくお願いいたします。