会長挨拶

第71回日本ウイルス学会学術集会
会長 吉川 哲史
(藤田医科大学 医学部 小児科学)
この度、第71回日本ウイルス学会学術集会を主催させていただきます、藤田医科大学小児科学の吉川哲史です。臨床分野が担当するのは2008年の第56回を岡山大学小児科の森島恒雄先生が主催されて以来16年ぶりになり、名古屋での開催は私の恩師である西山幸廣先生が主催された2006年の第54回以来、18年ぶりとなります。日沼頼夫先生が記された「日本ウイルス学会50年の歩み:私記」を拝見すると、冒頭に歴代学会長を振り返ったくだりがあり、ほとんどが基礎医学の先生ですが、それ以外に獣医学、農学、理学、最後に臨床医学もありと記され、つまるところウイルス学会は医学だけではなく他分野も含めより広い視点でウイルス学を学問として育てようとあります。臨床医学が最後に記載されているように第50回までの臨床医学分野の学会長は3名のみで、第28回の加地正郎先生、第32回の中尾享先生、第48回の神谷斎先生となります。さらに、先の森島恒雄先生を含め70年の歴史の中で臨床医学からは4名の偉大な先生方のみであり、この度、私が第71回の本学会を主催させていただくことになり、大変に身の引き締まる思いであります。
さて、今回のウイルス学会を企画するにあたり、「Curiosity の共有:基礎と臨床の融合で日本のウイルス学をより面白く」というテーマを掲げました。私はこれまで小児科医として臨床研究を基盤としてウイルス学研究に携わってきましたが、一方でキャリアの中で2度ほど基礎研究に軸足を置いた時期があります。その時の経験を通し、基礎医学者と臨床医では同じウイルス学でも目指す方向性がやはり異なっているということは実感してきました。しかし、ともにそれぞれの観点で疑問に思った事象を基礎研究、臨床研究で明らかにしてやろうという高い志は変わりません。さらに、それぞれの研究目的(curiosity)を共有し議論を深めることでより質の高い研究につながることも経験しました。今回のウイルス学会では、基礎ウイルス学者と臨床医がお互いのcuriosityを共有できるようなプログラムを組み、両者の協働が将来のよりインパクトの高い研究成果創生につながることを願っています。
臨床医学側から、もう一つ基礎ウイルス学の先生方と情報共有したいことがあります。初期臨床研修制度、専門医制度の整備が進み、一定レベルの臨床医を確実に育成するという当初の目標は達成されつつある一方で、リサーチマインドを持ったphysician scientist育成という視点からは大きな危機感を抱いています。ウイルス感染症の患者数は非常に多いものの自然に軽快する疾患も多く、がん、脳疾患などのように研究のターゲットとなりにくく、physician scientist育成という点で大きなハンディがあるように思います。一方で今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックを経験し、改めてウイルスの基礎、臨床研究の重要性が再認識されました。将来の新興感染症に備え、常日頃からウイルス学に精通したphysician scientistを育成しておくことは極めて重要と考えます。自身のキャリアを振り返ると、大学院時代も含め小児科臨床がメインの時期を経て、1993年からの2年半の米国FDA留学で経験した単純ヘルペスウイルスの基礎研究、1999年から西山幸廣先生の下で助教授として農学、理学出身の若手の先生たちと研究をする機会を得ました。臨床と基礎を行き来することは一見すると回り道のように見えますが、私たち臨床医にとって自分たちに不足する基礎ウイルス学の知識、研究手法を学ぶ良い機会であり、その経験は臨床に戻った際に患者さんを通して生まれた課題を解決するうえで必ず役に立つと確信しています。本学会を機に、ウイルス学会全体でウイルス学に精通したphysician scientist 育成のための若手のキャリアパス構築が進むことを願っています。

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