会長挨拶

第26回日本ワクチン学会学術集会
会長 五味康行
一般財団法人 阪大微生物病研究会 ワクチン推進部門
会長
2022年11月26日(土)~27日(日)の2日間にわたり、第26回日本ワクチン学会学術集会を香川県県民ホール(高松市)で開催しました。集合形式を主体にして開催する旨を9月に告知しましたが、それから間もない10月下旬からCOVID-19第8波到来の兆しが見え始め、四国の地方都市までどれだけの方がお越し頂けるか、直前まで大きな不安を抱いていました。しかしその不安とは裏腹に、事前参加登録は624名と予想を大きく上回り、結果的には全国から817名(招待参加者を含む)もの沢山の方々にご参加を頂きました。
幸い穏やかな晴天にも恵まれて、澄み渡った青空と美しい瀬戸内海を学会会場から見渡すことができました。弘法大師生誕の地である香川県の空と海が見える会場で、サイエンスに基づく真言が交わされました。同じ空間でお互いの目を見ながら討論するという学術集会の原点を改めて認識できたとともに、新型コロナ禍のもとで滞留していたコミュニケーションがこの2日間で随分と闊達化されたのではないかと思っています。運営上、至らぬ点はございましたが、盛会に終えることができましたのは、ご参加頂いた皆様をはじめ、座長・演者の皆様、ワクチン学会理事の皆様、プログラム委員の皆様、協賛いただきました団体・企業の関係者の皆様、運営に携わった全ての方々のお陰と深く感謝しております。
今回の学術集会のテーマのとおり、日本発世界初のワクチン開発を目指して様々な議論がありました。シンポジウム「新型コロナウイルスが変えたもの」および「ワクチン強国になるために」の中で、他の研究分野との融合が大切であるという意見が幾度か出ました。本学会は、基礎研究分野、臨床応用分野、疫学分野、行政分野、製造・開発分野などの広い領域に属する多様なメンバーが集う“学際的学会”であるという大きな特長を持ちます。この特長をうまく利用して、他の分野に属する研究者とのネットワークを広げ、そしてそれを強固な信頼関係に築き上げることが、日本発世界初のワクチン開発に繋がるのではないかと考えます。特に新型コロナワクチンの開発で出遅れた本邦の現況を鑑みますと、国家戦略である「ワクチン開発・生産体制強化戦略」の実行と同時並行的に、個々の研究者が自分事として直ちに取り掛からなければならない課題だと感じました。
また、シンポジウム「新型コロナワクチンの最新臨床開発情報(AMED共催)」およびミニシンポジウム「本邦における新型コロナワクチンのリアルワールドエビデンス」では、それぞれのタイトルの通り、前者は国内で開発中の新型コロナワクチンの最新状況を、後者は既存の新型コロナワクチンの有効性と安全性に関する国内の臨床データを、詳細にかつ丁寧にご説明頂きました。いずれもこの1年間で大きく研究・開発が進捗したという印象を受けながら、興味深く拝聴しました。シンポジウム「今あるワクチンを正しく使う(予防接種推進専門協議会共催)」においては、本邦では薬事承認面でのワクチンギャップは克服されつつある一方、既存ワクチンを使用する面での課題が残っていることが示されました。会場の先生方とこの課題を共有することができ、有意義な内容であったと思います。
特別講演では、山西弘一先生にワクチン開発の歴史、および本学会の歴史に関してご講演を頂きました。特に私の印象に残っているのは、本学会の設立に関わった4人の先生(神谷齊先生、加藤達夫先生、倉田毅先生、山西弘一先生)が、熱い信念を持って“学際的学会“の礎を作られたという点でした。今、私たちが当たり前だと思っている本学会のこの特長は、設立時の信念が変わらずに継承されてきたものであることを再認識する必要があります。さらに、サブテーマの「踏み出そう、次の四半世紀(ステージ)へ」のように、多くの先生方が四半世紀にわたって牽引されてきた本学会を、次の四半世紀を受け持つ世代へと引き継いでいく必要もあります。今回、一般演題の座長を多くの若い先生方にお願いしたのも、会長としてその意志を示したつもりです。
韓国ワクチン学会招聘講演では、COVID-19流行下での韓国における定期接種の現状をご講演頂きました。高橋賞受賞記念講演では中野貴司先生に、高橋奨励賞受賞講演では、三輪晴奈先生と八木麻未先生にご講演を頂きました。若手奨励賞を受賞された4名の先生方のご発表は大変素晴らしいものばかりでした。
一般演題の86演題のほぼすべてが現地での口演発表でしたが、どの会場でも活発な議論が交わされていました。今回の一般演題には、新型コロナウイルスに関する演題がほぼ半数を占めるといった傾向がありましたが、今後は新型コロナウイルスだけでなく、より幅広い研究領域での研究・開発の発展を期待したいと思います。10題の教育セミナーも満席に近く、ワクチンに関して興味が高まっている現状が垣間見えたようで、大変喜ばしく感じました。
会場から見えた瀬戸内海の美しい景色のように、本邦におけるワクチンの研究・開発の未来は前途洋々とし、可能性に満ち溢れています。私たちの力を結集すれば、高橋理明先生が開発された水痘ワクチンのように、日本発世界初のワクチンを再び創り出すことは可能だと信じています。2023年10月に中野貴司先生が田中敏博先生と開催される合同学術集会(第27回日本ワクチン学会・第64回日本臨床ウイルス学会)において、新たな四半世紀の第一歩目の成果をお聞かせ下さることを心から楽しみにしています。
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